不動産投資を志す人にとって、一度は気になる「太陽光投資」。かつては空室のない賃貸経営ともてはやされ、いろんなメリットを享受できた時代もあったけれど、これからはどうなのか?
最近またやけに「太陽光」を宣伝するメディア広告が目に付きます。
私はかねてより太陽光設備を所有しており、「いい時代」に始めたクチだと思いますが、4〜5年の太陽光投資経験を経て、これからの太陽光について感じたままをお伝えします。
太陽光投資をこれから始めてみよう、とお考えの方に、参考になれば幸いです。
あえて難しい用語をできるだけ使わず簡潔に伝えますので、専門性においては言葉が足りない部分はご容赦ください。
そもそも太陽光投資ってどんなもの?
「売電」する事業
スバリ、太陽光を発電する設備をつくって、そこから得られるエネルギーを電力会社に売る(=売電)ことによって利益を得る仕組み。その設備に投資することです。
太陽光を受け取るものを「パネル」、受け取ったエネルギーを電気に変える装置を「パワコン」(パワーコンディショナーの略)と呼びます。
大きく分けて2つのタイプがある
太陽光設備は、収益物件の屋上に設置されるものと、「野(の)だて」といって地面にパネルを設置するものがあります。
屋上太陽光は10kW前後の小規模なものが多く、設置費用はおよそ500万円前後。
野だて太陽光は小規模なものから◯千kWの大規模なものまで様々あり、最近販売されているのは約2,000万円程度のものが多いです。
20年間の売上を確約?
固定価格でずっと売電できるメリット
太陽光発電事業には「固定買取制度」といって、20年間にわたり固定価格で買い取ってもらえるという利点があります。但しこれは1kWあたりの単価を確約するものであり、当然ながら毎月の売上を保証するものではありません。
実際の売電価格は単価×売電量となり、つまり発電する量(=日照量)によって変化するので要注意です。
年々下がる買取価格
一度契約するとその価格は20年間固定されるのですが、いくらで固定するか、は年々変わっています。
最も優遇されていたのは2012年で1kWあたり40円(税別・10kW以上50kW未満の設備)でした。
その後、2013年/@36円、2014年/@32円、2015年/@29-27円、2016年/@24円、2017年/@21円、2018年/@18円、2019年/@18円、2020年/@13円と、着実に下がってきています。
これは、政府が再生可能エネルギーの設備創設を全面的にバックアップしていた時期から、だんだんと「もう十分」という状況になってきたため、買取価格も厳しくなっているのです。
私自身の太陽光投資経験からみた真実
そんな中、私も太陽光投資をしているため、その実態と所感について述べていきます。
2ヶ所の収益物件の屋上に設置
収益物件の屋上に設置しているのは約11kWの小規模なもので、買取価格@36円の時代に設備費用が約500万円かかりました。
年間の収支としては、売電額:55万円前後、ローン返済:39万円、電気料金:1万円で、だいたい年間で15万円前後の手残りがあります。
野だて太陽光を2区画
茨城県那珂市に2区画合計で4,235㎡の土地を所有し、220kWと80kWの発電設備があります。パネル総数は1,056枚。設備総額は1億5,000万円でした。買取価格は@40円。
50kW以上の設備は「高圧受電」といって、キュービクルという変換装置の設置と電気主任技師による定期点検が義務付けられているため、管理費もそれなりに高額になります(年間約50万円)。
年間収支は売電額でおよそ1,500万円と高額になりますが、保険料を含めた支払いと維持費もかなりかさんでおり、1,300万円程度が支出です。手残りが200万円あれば良い方です。
「空室のない賃貸経営」って本当?
異常に気づかないリスク
アパート賃貸経営と比べると、たしかに「空室」の概念はなく、太陽が照り続けるかぎり売電収入があります。
しかし大規模の太陽光設備では、部分的にパネルやパワコンが故障してもなかなか見つけられません。私は一応モニター管理をしていて、発電量が0になったときには警告メールが届くようになっていますが、たとえば20%ダウンしても、それが悪天候のせいなのか機械故障によるものなのかはわからないわけです。
こう考えると「空室に気づかない賃貸経営」と言うこともできるでしょう。
2ヶ月に1度の定期点検も行っていますが、言ってみれば2ヶ月に一度しか故障に気づくチャンスはないのです。しかも故障箇所を正確に突き止めるには別途調査が必要だったりします。
パネル毎に熱量を測定するなど、常時完璧に状況を把握する方法もありますが、そうすると管理費が売電価格を上回るほど高額になってしまいます。「管理費をどこまで抑えるか」も太陽光投資では重要な判断になります。
利回りを上げることは不可能
賃貸業であれば家賃を上げることもできますが、売電価格は固定されているため絶対に上がりません。それどころか、発電パネルは年々劣化していくので、売電力も徐々に下がっていくと考えるのが妥当でしょう。
購入時の利回りは新築アパートと同じ「シミュレーション」であり、本当に期待通りの発電量があるとは限りません。もちろん日射量によって大きく変わってくるため、年間を通算してみて初めて結果が出るし、年によってどうしてもブレがあります。
太陽光投資の実態
以上の経験と、最近の太陽光業者(数社)にヒアリングした結果、以下に所感を述べます。
安くなっている設備価格
買取価格が40円の頃に比べて今は信じられないほど安く、普通に考えれば収支はマイナスになるはずでした。しかし設備業者も企業努力をしたのか利益を下げざるを得なくなったのか、当時に比べてパネル設置費用が格段に安くなっています。
これにより、今でも利回り10%程度が維持できているものもあるのが現実です。
手残りはほぼゼロ、と心得た方がいい
たとえ利回りが高くても、前述の通り年間売上を約束されるものではありません。売上が想定よりも低ければ、固定費は変わらないのでそれだけ手残り(キャッシュフロー)が減るのです。
太陽光設備に全額融資を受ける場合、今は基本的にノンバンクでしか借りられず、金利は2%台、返済期間は10〜15年です。この返済条件では返済比率が高くならざるを得ません。売電売上からすべての支出を差し引いた手残りはほとんど0、と思っておいた方が良いでしょう。
減価償却には有効
手残りのない投資案件の場合、メリットを減価償却に求めることは一案です。他の事業で利益がものすごく出ている場合には、太陽光設備のように「お金を生み出す装置」を購入すれば、減価償却として利益を圧縮し、節税に貢献できます。
太陽光の融資には「覚悟」が必要
2020年が最後のチャンス
2021年からは「固定買取制度」が撤廃されるという話もあり、もはや安定的な収入が望めなくなると、太陽光で収益を上げることはリスクが高すぎて、魅力を失います。そういう点では、今年が最後の投資機会となり、買えるものがあれば買っておくという考え方もあります。
与信を毀損するリスク
太陽光設備は不動産と違い、銀行目線で見て、購入後の価値はほとんどありません。これで融資を受けると、返済が終わるまで資産価値よりも負債の方が上回るため、次の融資を受ける際の足かせになります。
費用を全額融資でまかなえるからといって安易に購入すると、現金を持たない限りそこから先の事業拡大は絶望的となる可能性が高まるわけです。
「0円太陽光」の裏事情
最近では「0円で太陽光を設置できる」という業者が出てきています。これには条件があり、収益物件の屋上に設置すること。たしかに設置費用も維持費用も無料ですが、売電収入も業者が受け取るため、オーナーの収入はゼロです。いわゆる屋根を貸すだけですね。
その代わりその収益物件の公共電気料金を指定の電力供給会社に変更することで、毎月支払う電気料金の節約ができます。
つまりこのスキームは、新電力会社に切り替えるための特典として、太陽光設備が無料進呈される、というものです。わずかでも電気代が安くなり、10年もしくは20年の契約期間満了後には、電力をその物件の自家消費にも使えるので、物件の差別化としてはメリットがあるでしょう。
但し太陽光設備を撤去する費用は自己負担となるので、計画的な運用判断が必要です。
まとめ:今から太陽光投資をやる意義
区分マンションを勢いで購入してしまう人にありがちですが、販売会社がきちんと説明しているにも関わらず、都合の良い面だけを期待して契約し、結果的にお金が増えない、騙された、と勘違いするケースも多いので、現実をしっかり見極めることが肝要です。
キャッシュフローは期待できない
いくら設置費用が安くなっているとはいえ、総額融資を受けて10年程度で返済する限り、売電収入ー支出で捉えるキャシュフローはほとんどない、と思っておいた方が良いでしょう。
残る望みは「消費税還付」
例えば2,200万円(税込)の購入した場合、そこには税率10%の消費税が含まれているわけです。この分の200万円程度が、手続きのやり方によって合法的に還付されるケースがあります。
個人として消費税還付をやり遂げることはかなりハードルが高く、法人設立が原則です。この場合、毎年の決算報告は税理士に委託する必要があり、その分税理士費用がかかります。そういった費用と相殺して果たして消費税還付を受けることが得策なのか、よく考えた方が良いです。
他にもさまざまな条件がありますので、事前によく顧問税理士などの専門家や販売業者に確認しておくことが重要です。
購入した先のメリットを「金額」で捉える
太陽光投資の是非は、当人が判断すべきことであるのは言うまでもなく、どういう物件をどんな条件で購入すべきか、も目的によって異なります。
減価償却か消費税還付か、それとも0円太陽光で電気代の節約と物件のイメージを高めるか、いずれにしろ実際の金額でシミュレーションしてみることをおすすめします。
売電収入の想定額、ローン返済額、管理費用をすべて明確に割り出し、自己資金を出すのであればそれが何年で回収できるか、節税メリットはいくらなのか、他に気づいていない支出はないか、きちんと数値で把握することが大切です。
手残りキャッシュを増やすことはほぼ期待できない現実と、融資を受ければ金融機関に対して与信を毀損するリスクを踏まえて、総合的に判断してみてください。