不動産投資に興味を持ち、物件を探しながらいろいろと調べていくと「サブリース」という言葉を目にします。
「サブ?」「リース?」ってなんだろう、と思っていると、その説明はオーナを安心させるメリットばかり。そんなにいいの?と思い込む前に、その裏にある現実にも目を向けておくべきです。

サブリースとは「一括借り上げ」のこと。

空室があろうがなかろうが、管理会社が「満室相当家賃」でずっと借り上げてくれます。

それはいい

と思うかもしれませんが、ここに大きな落とし穴があります。

保証されているのは「家賃」ではない

サブリースは、もともと家賃の満額をオーナーがもらえるのではなく、実際に入居者が支払っている家賃から手数料が差し引かれるため、実額の80%〜85%程度の収入になってしまいます。

つまり、本来その物件を満室にできるなら、サブリースではない方が収入は高いのです。

空室が出ると怖いから、という安易な理由でサブリースに走ってしまうと、その分、管理会社にごっそり持っていかれる、ということを覚悟しましょう。

「満室相当家賃」は、いつの間にか下がる。

例えば、新築当初は一部屋6万円の家賃を前提にして利回りを算出します。周辺に中古の競合物件があったとしても、新築である強みから家賃を高めに設定できます。これを「新築プレミアム」と呼びます。それで一回は満室になったとしても、次に退去があって、そのあと募集すると今度はもう新築ではないので、周辺にある競合物件の家賃に合わせざるを得なくなります。そうして3,000円、5,000円と下がっていき、駅からの徒歩時間内装・設備などの競争力によっては、いきなり1万円くらい下がったりします。

それは、時には管理会社の方で勝手に決められてしまいます。そうなってくると、2年後や5年後には、当初想定していた利回りが大きく崩れ、収支が合わなくなってしまうのです。

「◯◯年固定」でも安心できない

サブリース契約時に「10年固定」という文字を見て安心していても、実は、借地借家法32条第1項の規約により、「契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。」となっています。サブリースの場合は請け負う側が「借主」なので、借主に手厚い日本の法律では貸主よりも借主の方が守られて、有利になるようです。

これによってサブリース会社から家賃減額の提案を受けるオーナーが「話が違うじゃないか」となり、トラブルに発展します。

事業者指定の修繕に莫大なコストが!

サブリースの場合、10年・15年後の契約更新ごとに大規模リフォームを行うことが条件に盛り込まれていることがあります。その際、サブリースの会社系列の事業者が指定されていてオーナが自分で業者を選べないようなっていると容赦なく割高のリフォーム費用が請求されます。

これもトラブルの元になります。

そもそもサブリースの会社は安心なのか?

かぼちゃの馬車事件

2017年から2018年に社会問題となった「かぼちゃの馬車」事件。かぼちゃの馬車とは、都内にたくさん建てられた新築シェアハウスの物件名称です。この物件に融資をしたスルガ銀行の責任が問われていますが、一番の原因は企画・販売したスマートデイズ社にあります。

地方から上京する単身女性のための職業斡旋と合わせて都内の新築物件(シェアハウス)を企画した該社は、比較的高属性の投資家を対象に物件を販売し、その運営をサブリースとして請け負う。このスキームだと、オーナーは何もしなくても毎月家賃が入ってくるわけで、ただお金を出す、もしくは融資を受ければ万々歳、と思ったのでしょうか。

しかし実際には物件の魅力が乏しく、部屋が狭かったりシェアハウスとしての公共スペースが無かったりして、さらには家賃が高すぎてなかなか入居者がつかない状況が続きました。その間、オーナーへは規定賃料を支払わなければならないため、サブリースの運営会社は次第に赤字経営になっていきます。もはや自転車操業ですね。

その赤字を埋めるためにまた新たに物件を販売し、次のオーナーを募って融資を受けさせる。大きな利益を上乗せされた物件を購入したオーナーは、銀行が融資してくれるのだから安心サブリースだから安心、と思って決意したようです。

ところが実際に入居者がついていないのですから家賃収入が得られず、やがて原資も底を尽きます。そうしてサブリース会社はオーナーに支払うべきお金が無くなって倒産。倒産した後は債権回収できなくなって、オーナーはいわゆる泣き寝入りの状態になりました。

最悪のシナリオ

そして止む無くサブリースが解除されると、実際には空室ばかりの物件だった、ということにようやく気付かされます。

その後オーナーは、自分で客付けをするか、売却するか、の選択を迫られます。自分で客付けする、もしくは他の管理会社に依頼するにしても、もともとの家賃を大幅に引き下げざるを得ず、収入は大きく減ります。売却するにしても、購入時に実際の資産価値と大きく乖離した高額で買っているため、実勢価格で売却すると損失額が膨大になります。さらにマズイことに、購入資金のほとんどを融資で賄っているため、売却しても残債をクリアすることができないのです。

そうして露頭に迷ったオーナーがたくさんいました。

都合の良い解釈が招いた結果

サブリースとは直接関係ありませんが、このかぼちゃの馬車事件の原因は、販売会社・サブリース会社のほぼ詐欺まがいの企画・販売方法にあると言えますが、つまるところ購入者の責任も無視できません。

どんな物件であれ、購入するのはオーナーとなる側の自己責任のもとに判断されるべきで、ある程度の入居予測物件価格の妥当性を確かめる必要があります。そして最も重要なのは返済比率で、家賃収入のうちどれだけ返済に回すのか、をしっかりとシミュレーションしておくことは、どの物件を購入する際にも必須の事項です。

収益不動産、賃貸業の仕組みを全く学ばず、調べずに、業者の口車に乗せられてしまったのかもしれませんが、ここまで悪意に満ちた案件はそうそうあるものではありません。

しかしたとえ悪意はなくても、サブリース会社が倒産するリスクは払拭できません。かぼちゃの馬車事件の前にも、入居者を確保できず経営が立ち行かなくなった会社や、前月の家賃を持って逃げた保証会社がありました。

このように入居者と向き合わず、人任せにしていると、いざというときに慌てることになります。

まとめ

サブリースのシステムは、オーナーは手間がかからず便利なようで、もしくはいかにも家賃収入が保証されているかのように見えて、全然そんなことはないのです。

これらのトラブルについて、すべての管理会社は「契約時に説明している」と述べています。おそらくそれも事実なのでしょうけれど、多くの専門用語が飛び交う不動産取引の中で、そこまで把握しなければならない、というのもハードルが高まります。

不慣れなオーナーは特に気をつけなければいけません。疑問に思うこと、不安に思うことは、その場でちゃんとメモを取って残しておくと、後で主張するときに有効です。

サブリースは、大家にとって永遠の課題となる「空室対策」を代わりに請け負ってくれる安心・安全なシステムのように見えるかもしれませんが、その分、多くの費用とリスクも背負わなければなりません。

面倒な客付けから目を背けずに、自分できちんと状態を把握して、常に満室維持に邁進するのが本来の賃貸経営だと私は思います。