不動産投資に限らずさまざまな投資案件に出会うと、よく「利回り」で表現されることがありますが、今更ながらこの「利回り」って何? と、不動産投資にどっぷり浸かった(?)気でいる自分自身でも、果たして正しく認識できているのか問い直すことがあります。
不動産投資に慣れているからこそ勘違いしやすい落とし穴について解説していきます。
利回りが意味するもの
「利回り」を辞書で調べてみると“投資元本に対する利子も含めた収益の割合“とあります。
つまり100万円を投資して1年後に110万円になった場合には、きっちり10万円増えたので、年利回りが10%と言いますよね。これはシンプルでわかりやすい。
ところが不動産投資の場合にはちょっと複雑な感じになってきます。
不動産投資での利回り
1,000万円のマンションを現金で購入し、一年後に1,100万円で売却した場合には、前述の例と同じく利回り10%と言って良いのでは、と思います。
ただし言うまでもなく収益不動産には家賃収入があるので、たとえ売却しなくても売上(=収入)があり、そのマンションで家賃を月5万円もらっていれば年間60万円。これは元本1,000万円の投資に対して6%の利回り、となります。
でも同じく一年後、そのマンションを売る時に、900万円になってしまったら、家賃収入の60万円と合わせても960万円しか残りません。この場合、40万円の損なので、利回りはマイナス4%となります。
2年後に900万円で売却した場合には家賃収入が60万円×2年=120万円になり、900万円+120万円=1,020万円なので、利回りはプラス2%となるわけです。
利回り計算のベースとなるもの
たいていの不動産投資は融資を受けて行うため、元本に相当するのは最初に拠出した自己資金ではなく「融資額も含めた物件価格の全額」とします。つまり金融投資でいう元本を、融資でまかなえてる感じですね。その物件から得られる「年間家賃収入」を利回りの材料として計算するのが一般的。
ここで言う不動産投資の利回りとは、いわゆる預金や株・債券などの金融商品にたとえると「配当」の部分に相当します。最終的には物件を手放すまでに得た家賃収入を積算し、売却時の利益と合算して、かつ、所有期間中に支払ったローン返済金をはじめとする物件維持のための経費をすべて差し引いてみないと、正確な利回りとは言い難いのです。
だからこそ不動産投資の収益性は年間利回りだけでなく、売却時の価格も視野に入れて把握する必要があります。
言葉にとらわれてはいけない
ここで言いたいのは不動産投資の「利回り」についてその是非を論じるのではなく、本質を理解して接することが大事ということです。
特に、他の事業と安易に混同しないように気をつけた方が良いですね。
まぎらわしい「利回り」のワナ
不動産投資に慣れ親しんでくると、他の事業でもつい同じ収益の考え方で接してしまいがち。さらにいえば同じ不動産関係でもいろんな投資スタイルがあり、融資を受けているのか現金購入か、売却するのかしないのかなどによって、捉え方も変わってきます。
その辺りは時々頭の中を整理する必要があると思われますので、そんな私の実感も踏まえた落とし穴について、以下を紹介しておきます。
転貸ビジネスを”利回り”で表現するのはキケン
同じ賃貸業でも、自分自身が賃貸契約で部屋を借りて、その部屋を民泊や貸会議室にする場合には「売却」というフェーズがありません。つまり、元本を一気に回収できる機会が無いのですから、何年経っても元本は戻って来ない可能性の方が高いわけです。
たとえ「年間利回り◯%」というもので、その事業の収益性が表現されていたとしても、他の金融商品や不動産投資の世界での「利回り」とはあまりにも違います。
残ったお金はいくら?
たとえば月額家賃10万円の部屋を借りてレンタルスペース事業を行い、12万円の売上、2万円の粗利。それが一年続いたとして年間での粗利が24万円だったとします。
家賃は12ヶ月で120万円、売上は12ヶ月で144万円、粗利24万円です。
120万円の支出に対し24万円の利益だから、利回りは20%?
元金となるべき120万円が、事業を撤退する時に全額戻って来るのなら、この利回り表現でも良いのですが、支払った家賃は実際には戻って来ないので、純粋に24万円だけが残るわけですね。
これって、利回り◯%でいいの?
その民泊や貸会議室のために家具や机、椅子、事務用品などの設備を購入したイニシャルコストが50万円だった場合、50万円の初期投資額に対して年間24万円の粗利なのだから、利回り48%??
おー、こりゃすごい!と思いがちですが、その初期投資額も収益物件とは異なり、売却時までに同じ資産価値をキープできることはほとんどないでしょうから、最初に支払った50万円はほぼ返ってきません。
ですので、50万円を拠出して年間24万円の利益を得られたとして、2年経っても回収はできず、3年目の2ヶ月目(26ヶ月目)になって、トータルでようやく最初の50万円分を回収し終わり、そこからやっと黒字になるということになります。
太陽光投資でも元本は返ってこない
太陽光発電設備への投資も同様に、固定買取期間の20年経過後に売却する際の資産価値はほとんど見込めませんから、利回りをベースに考える投資案件ではなく、キャッシュフローをベースに考える事業案件と捉えるべきです。
初期投資額はいくらで、それを何年で回収できるのか。回収した後は(固定買取制度により)何年間でいくらのキャッシュフローが貯まっていくのか。
そうして得られるキャッシュに加え、太陽光設備ならではの減価償却など税金上のメリットを加味して、やるべきか、やらないべきかを判断するのが正しい進め方ですね。
元本とイニシャルコストは違う
資金回収の考え方は事業として当然で、飲食店をやるにしても、何かビジネスをするにも初期投資(イニシャルコスト)があり、それを回収するのに何年かかるのか、という指標は大事です。これはもはや「投資」ではなく「事業」とか「経営」のカテゴリーですね。
利回りの元本と事業のイニシャルコストは、実は全く異質のものなのです。
でも不動産投資だけは(あるいは他にもあるかもしれませんが)、所有期間中の家賃収入(=利息に近い)、物件そのものの資産価値(=元本に近い)という2軸の特徴が金融商品と似ているため、あえて「利回り」という表現をして「投資」という言葉を使っているのだと思います。
不動産投資が「投資」と呼ばれるワケ
私はかつて不動産投資は「投資」ではなく「事業」と捉え、投資=不労所得、事業=何らかの努力をして成立させるもの、と分類していた時期がありました。しかし高確率で返ってくる元本に相当する資産があり、家賃収入のことを「利回り」と表現する以上、「不動産投資」という言い方もあながち間違ってはいないかな、と感じるこの頃です。
利回り=収益性ではない
不動産投資と似ている事業だからといって “利回り”だけが期待される成果としてクローズアップされると、実はその初期投資が「元本」ではなく“イニシャルコスト”としての支出だった場合に、その後の収益計算を見誤る可能性があるので要注意です。
まとめ
不動産投資における「利回り」はかなり基本的なワードではありますが、今回あえてこだわって考察してみました。こういうことをしっかり押さえて理解しておくことで、失敗を防げるようになるし「業者に騙された」みたいな、他責にして被害妄想を抱く不幸な状態を避けられる一助になると思うのです。
本来は金融商品についての表現である
利回りとはもともと「投資」行為をベースに考えられた独特の表現で、拠出したお金が“元本を含めて”どのくらい増えて返ってくるか、を目安にするものに当てはまります。
不動産投資はたまたまインカムゲイン(家賃収入)・キャピタルゲイン(売却益)という2軸の収益が柱になっている点で金融商品と似ているため、利回りでの表現が有効。
「利回り」が不適切な表現になるケース
やがて返ってくる元本が無いもの。たとえば賃貸料を支払って運営する貸会議室や民泊など。
*ただし購入した物件で事業運営する場合はインカム&キャピタル両方が得られるため、利回り表現が当てはまります。
気をつけるべきこと
元本とイニシャルコストを区別するなんて当然!と感じる方もたくさんいらっしゃるとは思いますが、不動産投資しか経験のない元サラリーマン(=月給生活者)の私にとっては、いろんな副業がなんでもかんでも利回りで表現されていると、つい不動産投資と同じように捉えがち。そしてたくさん儲かった気分、もしくは儲かりそうな気になるけれど、実は初期投資費用を全く回収できずに撤退することがあるかもしれない、と戸惑うことがありました。
こういう思い違いを払拭するには利回り(%)ではなくキャッシュフロー(金額)でチェックすることが有効です。原則は、いくら拠出していくらのリターン(手残り)があるのか。そこにパワーと時間をかける価値があるのか、を考えて行動する。これは”投資“でも”事業“でも同じですね。
シンプルな判断材料
リターン(手残り)を考える時には当然、受け取った金額から支払った金額を差し引くわけで、“率”ではなく“額”こそが真実。
事業全体の成長性や可能性を測るには“率”で、実際の利益や事業運営の体力を見定めるには“額”で測ってみるという視点。それぞれの投資案件に対して効果測定の本質を正しく理解し、さまざまな角度から柔軟に捉えることが大切ですね。
物件購入時における利回りの詳細についてはこちらを参考に。
不動産投資で最初に覚えておきたい3つの「利回り」