物件を売却するときは、その売却益に対して譲渡税がかかります。その税率は個人or法人によって異なりますが、これを見落として売却をすると、あとから想定していない(本来は想定しておくべき)納税義務が発生し、大変なことになります。
今回はその譲渡税を考える上で、 物件を10年以上保有した後に売却し、その前後一年以内に一定条件をクリアした次の物件を購入すると、売却時の譲渡税を8割程度繰り延べることができる制度がありますので、ご紹介します。
特定事業用資産の買換え特例
今回解説する制度は正式名称を「特定事業用資産の買換え特例」といいます。
個人所有のマイホームでも同様の仕組みがありますが、ここでは事業用に限定して具体的に説明します。
譲渡税とは?
簡単に捉えると、売却益にかかる税金のこと。売却益=売却価格➖残存簿価です。
ここで要注意なのは、売却価格から「購入時の価格」を差し引いたものではなく、「残存簿価」を引いたものであるということ。
残存簿価に着目
残存簿価とは、減価償却後の現在資産価値。減価償却とは、経費として計上した分、もともとの資産価値を減らすこと。
例えば価格1,000万円の建物を購入した場合、全額を一度に経費計上することはできませんが、あらかじめ年数を決め、10年で償却するケースだと、1年に100万円ずつを経費計上していきます。
その残った資産額、1年目は900万円、2年目は800万円が残存簿価です。ちなみに土地の分は減価償却されません。
売却価格―残存簿価が売却益
繰り返しになりますが、売却価格からその時点での残存簿価を差し引いたものが利益の算出根拠になるため、確定申告書や決算書をベースに現時点での残存簿価を把握しておくことが必須です。
買換え特例とは
売却後、次に購入する物件が一定の条件を満たすと、譲渡税の元になる売却益が8割程度減免され、結果的に納税額が大幅に減ります。
詳しくは国税庁のHP(租税特別措置法第37条)をご参照いただきたいのですが、ここでは至極シンプルに説明します。
買換え特例を受けるための条件
10年保有の計算方法
必須条件である「10年以上」とは、物件を取得してから10年間ではなく、物件取得後、1月1日を10回超えることが算出根拠になります。
もうすぐ10年を迎えるオーナーは、しばらく待ってから売却することも検討する価値があるでしょう。
次に購入する物件の条件
買い換える物件は、土地面積300平方メートル以上の事業用物件(土地+建物)。
その他、エリアについては一部指定地域がありますが、基本的には全国どこでも可。
大体60%〜90%の間で、最も多いケースが80%の税金繰り延べが可能です。
複雑な計算式を読み解く
わかりにくい計算式
税務の算式はなぜこんなに複雑なのだろう、と思うほど難しいと個人的には感じます。
しかし今回は自分の物件を売却した際に顧問税理士に粘り強く質問し、ようやく概ね理解に辿り着きました。
売却価格―残存簿価×利益率
数式を見るといきなりうんざりしますが、根気よくお読みください。
例えば残存簿価6千万円の物件を1億円で売却した場合、4,000万円が売却益となり、ここに税率がかけられます。この4,000万円が最大80%圧縮されるのが、この制度のポイント。
税率は個人or法人によって異なりますが、ここでは例えば30%としておきましょう。
4,000万円×30%=1,200万円が、本来収めるべき税金の額。―①
売却物件よりも高額の物件を買換える場合
さらに緻密な計算をすると、正確には1億円―6,000万円ではなく、売却利益4,000万円/売却価格1億円=40.00%という数値を「利益割合」として算出しておく必要があります。
そして売却価格1億円と、次に購入する物件の価格(例えば1.2億円)のうち値の低い方(この場合は1億円)が採用され、1億円×40%×0.8=3,200万円が譲渡税の算出根拠から圧縮されます。例に準じると(4,000万円―3,200万円)×30%=240万円。―②
買換え物件の方が安い場合
上記のケースで、売却する物件の価格が1億円で、次に購入する物件が9,000万円だった場合、9,000万円の方が安いため、9,000万円×40%×0.8=2,880万円が譲渡税の算出根拠から圧縮されます。例に準じると(4,000万円―2,880万円)×30%=336万円。―③
税率30%の場合の比較
上記の例をまとめると、通常計算による税額が①1,200万円のところ、次に条件に合致する物件を購入した場合、売却物件よりも高額であれば②240万円、低額であれば③336万円が収めるべき税金の額。
*この説明では便宜上、合計金額で計算しましたが、実際には土地・建物それぞれで売却と購入の金額を比較して算出します。
免除ではなく繰り延べ
税務署はそれほど甘くない
本件でいう「80%の利益圧縮」は、税金を免除してくれるわけではなく、いわゆる「繰り延べ」です。
この同じ金額の分だけ、新たに購入した物件の取得簿価が減らされます。
つまり、3,200万円分の利益圧縮を認められた分は、次回の売却時にしっかり利益として加算されていきます。
その対策は?
10年後、まだ制度が存続していれば、また同じことを繰り返すことができます。しかし、その保証はもちろんありませんし、税率も変更されるかもしれません。強いて言えばこの点がリスクと言えます。
私個人としては、それでも税金の繰り延べは積極的にやっていきたい。
先に延ばすことでまた別の節税策を工夫するチャンスがあったり、極論すればインフレに向かう中、同じ税率であれば未来の方が貨幣価値が下がり、納税も多少は楽になるかもしれません。
キャッシュを手元に残しておけば次の投資に回すことができます。金利など余計な費用がかからないのであれば支払いの先延ばしは大歓迎です。
売却時の留意点
いつ、いくらで売れるか
市場の動きは常にいろいろと取り沙汰されますが、自分の物件がいつ・いくらで売れるかは、なかなか思うように行かないものです。
今売ったらいくらの利益、1年後に売ったらいくらの利益が得られるのか、ということを常に把握しておくことが重要です。
私の売却目安
私自身は、これまでに所有していた物件のほとんどを2024年に売却しました。その際の価格の根拠は、年間キャッシュフロー(CF)の10年分を売却益で得られること。年間CFを毎月・毎年着実に把握していたからこそ、感情を入れずにその判断ができました。
CFの何年分かというのは、それまで物件を運営してきた労力と比較して、その労力&リスク×何年分に見合うかどうかということなので、個々により年数は変わってくると思います。
まとめ
10年を間近に迎える人は、一度はこの制度をチェックしてみてください。
さらには次に購入する物件について、不動産会社経由で物件を探してもらう場合には、きちんと条件=要望を伝えることも大切です。
税理士と綿密なコンタクトを
税理士によって知識に差があるようなのでよく確認することはもちろんのこと、正しい知識を持った税理士さんからきちんと説明を受けることを強くお勧めします。
今回は私の拙い知識のもとでざっくりとお伝えしているため、受け止め方によっては誤解を生じる恐れもあります。
実際の圧縮額や条件についてケースバイケースなので要チェックです。
数値把握がすべて
売却価格・購入価格のみならず、残債や残存簿価、そして毎年の正しいCFを把握しておかないと正しい利益額も把握できず、ただ税理士に言われたまま納税するしかない状況になります。
それはそれで構わないという考え方もありますが、きちんと数値を把握することで数百万円・数千万円の違いが生じることを思うと見過ごせません。
ぜひご自身の所有物件に関する数値を把握されることを強くお勧めします。
同じような状況のオーナーさんにとって少しもお役に立てれば幸いです。
参考資料:国税庁ホームページ:事業用資産を買い換えたときの特例